Covid Quarantine Birding冬編③ トラツグミとカンムリカイツブリ

平中 直也(葛西臨海公園探鳥会 担当)

Social distancing に気をつけながら、我が街豊洲にて。普段はあまり目を向けないような普通すぎる野鳥をシリーズで紹介していきます。COVID-19の感染拡大でまた外出自粛モードになりつつあるので、Covid Quarantine Birdingシリーズを時々書きます。今度は冬鳥編です。

「鵺(ぬえ)の鳴く夜は気をつけろ」

横溝正史原作の金田一耕助シリーズ「悪霊島」では、鵺つまりトラツグミの鳴き声がミステリーの重要な要素になっています。(ネタバレになるので詳しくは書かない)

「ヒィー」という薄ら寂しい鳴き声を、昔の人は"恐ろしい声"と感じたのでしょう。

 

トラツグミは、羽が虎のような模様をしていることからこの名前になっています。確かに虎のような模様ですね。

一方で英語名ですが、かつてはScaly Thrush(うろこ模様のツグミ)と一括りにされていた時期もありました。

現在では、かつて亜種だったものが独立種として分類され、私たちが日本で観察するトラツグミは、英国の博物学者ギルバート・ホワイト博士の名にちなんでWhite’s Thrushと名付けられています。

 

さてトラツグミと言えば、鳴き声と共に(私たち鳥業界では)、「トラダンス」が有名。

体を上下させてたり、足を交互にバタバタと地面を蹴ったりする動きがまるでダンスを踊っているようなのでトラダンスと言われています。

これは近くの落葉の下等に潜んでいる虫やミミズを振動で脅かして追い出したり、動きを察知してそれを捕まえるためにやっているダンスです。そしてダンスがうまくいくと、写真のようにご馳走にありつける訳です。

写真は地元の公園で撮影したものですが、都市公園でも冬に観察できるトラツグミ。チャンスがあればぜひ楽しそうなダンスを見てみてください。

トラダンス観察中のBGMは、ブラームスの「ハンガリー舞曲」、またはデヴィッド・ボウイの「Let’s Dance」で!

 



 カンムリカイツブリは、冬になると海で普通に見られる鳥で、カイツブリの仲間では北米に生息するクビナガカイツブリの次に大きい種です。ユーラシア大陸のほぼ全域で見られ、越冬のためオーストラリアでも見られます。

 

実は趣味としてのバードウォッチングが誕生した背景には、この鳥が歴史的に大きな役割を果たしています。

19世紀のイギリス、野鳥は見て楽しむというよりはハンティングの対象でした。特にカンムリカイツブリは帽子の羽根飾りや、皮ごと手を暖めるマフの材料として大量に捕獲され、絶滅の危機に瀕したのです。

カンムリカイツブリ等の絶滅に瀕した野鳥を保護するため、1889年に英国王立鳥類保護協会(Royal Society for the Protection of Birds : RSPB)が設立されました。

それ以降イギリスでは、RSPBの努力もあり、野鳥を捕殺したり飼育することを禁止し「見て楽しむ」ことが推奨されるようになりました。これがバードウォッチングの始まりです。

 

ところでカンムリカイツブリの生態について一つ。

写真はラブラブのカンムリカイツブリのカップルですが、オスとメスが頭部をもたげながら接近し、向かい合って左右に頸部を振ります(写真はその時のショット)。その後に羽づくろいをしたりしてお互いの愛を確かめ合います。

「ねぇベイビー、君のその白い首筋を見るとぞくっとするんだよ。」

「ダーリン、あなたのその冠羽も素敵よ。」

という2人の囁き声が、この写真から聞こえてきませんか?



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