身近な野鳥の識別講座③ カワウの話

澤本 将太

大型連休がやってきました。この時期はキビタキやオオルリなどの夏鳥、メダイチドリやオオソリハシシギなどの旅鳥たちの渡りが最盛期を迎えます。全国各地で様々な渡り鳥が通過していることでしょう。

 

今年は新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、今のところ5/6までは全国に緊急事態宣言が発令されている異例の事態のため、心穏やかな大型連休とは言えない状況です。家で過ごしている時間が増えていると思います。しかし、運動や散歩などの外出はできますので、健康維持のためにも外に出てリフレッシュする時間を確保することも必要だと思います。

 

鳥の観察は有名な探鳥地に行くことだけではありません。自宅の近くにある公園や散歩道などでも意外と多くの鳥が見つかるものです。1か所の公園でも、街路樹や植え込み、水辺など複数の環境が整備されていることも珍しくありません。それぞれの環境にそれぞれの鳥たちが暮らしています。普段は通り過ぎていた地元にある公園や水田、川や海岸・・・。みなさんの自宅の近くにもあるそうした場所を歩いてみたり、自転車で回ってみてはいかがでしょうか。近場の自然を見つめなおしてみると、面白い発見ができるかもしれません。

 

このコーナーでは、近場での鳥の観察をもっと楽しくできるお手伝いができたらと思っています。身近でよく見かける種類に焦点を当てて、似た種類や同種での性別・年齢の見分け方などを紹介します。「似ている種類でも実は違った!」とか、「こんな色なんだ!」とか、「こんな行動するなんて!」というような発見が近所でも味わえるかもしれません。

 

3回目となる本コーナー、今回は水辺で見られる鳥、カワウについてです。

 

●どんな鳥?

分類 カツオドリ目 ウ科

和名 カワウ  80㎝~101㎝

学名  Phalacrocorax carbo

英名  Great Cormorant

 

公園の池、川など水辺に暮らしている黒い鳥。その鳥はヘビのような長い首、細長い嘴、水かきが付いている指・・・。そんな姿ではありませんか? それが今回紹介する「ウ」の仲間のカワウです。ウの仲間は日本で4種類見られますが、カワウ以外の3種類は主に海で暮らしていて、カワウだけが内陸にも数多く進出しています。黒いイメージがあるカワウですが、羽毛をよく見ると上面はブロンズ色、下面は深緑色の光沢があります(画像1)。

 

画像① 上面の羽毛はブロンズ色の光沢があり、下面は胸元などに深緑色の光沢がある。足が体の後ろについているため、陸上では立ち姿勢になりがち。(2013年6月23日,千葉県)

  

また、虹彩が鮮やかなエメラルドグリーンというのもカワウの特徴です。光があたるとキラキラ輝いて見えて、まるで宝石のようです(画像2)。この虹彩の色は驚かれる方も多いです。公園の池などでは人慣れしているからなのか、近距離でカワウを観察できることもあります。もし見かけたら、虹彩の色をチェックしてみてください。

 

体を細かく見ていくと、水中を泳ぐのに適した体格になっているのがわかります。つまり、①細身でスマートな体型(しかし重さは約2.5㎏)が水中での空気抵抗を減らし、②体の後ろについている足の指にある水かきの推進力に頼って自在に泳ぐ、そして、③先がカギ状に曲がった細長い嘴が捕まえた魚を逃がさない、こうした体の構造のおかげで泳ぐことに特化しているため魚を効率よく捕まえることができるのです。潜るときは、翼を開かず首から水中にスッと消えるかのような滑らかな動作で潜っていきます(画像3)。

 

画像② 虹彩がエメラルドグリーン。(2020年1月5日,東京都)

画像③ 潜るときは翼を閉じたまま潜り、首から水に吸い込まれるイメージ。(2020年1月5日,東京都)


 

●餌の捕り方

捕まえる獲物の大きさは大小さまざまです。ときどき、「その大きさは無理ではないか・・・?」と思わずにはいられないほど大きな獲物を捕まえることがあります。そのような場合、時間をかけて飲み込もうと努力することもありますし、もちろん大きすぎてあきらめることもあります(画像4・動画もあり)。公園の池に生息している大型のフナやコイなどを飲み込もうと奮闘するカワウの姿が見られるかもしれません。

 

広い池や海岸、川などでは、複数羽が連携して浅瀬に魚の群れを追い込んでいく‘追い込み漁’と呼ばれる手法も行うことがあります。こうなると魚の踊り食い状態です。一心不乱に魚を捕まえて食べています。面白いのは、漁が始まると嗅ぎつけて四方から続々とカワウが集まってくることです。場所によっては数百~数千単位に膨れ上がることもあり、なかなか壮観です。(画像5・6) 

 

また、魚の群れが離れたところに現れると先陣がそちらに向かい、それに気が付いた後続隊が追いかけていき、別の場所で追い込み漁を再開するという光景も見られます。カワウは重さが約2.5㎏あるため飛ぶには助走が必要で、水を蹴って飛び立ちますが、その際はバシャバシャという音がします。大きな群れで行う追い込み漁では飛び立つときの音が重なることもあり、かなりの迫力です。

 

画像④ ウナギを捕まえたカワウ。大きさから30㎝ほどはあったと思われる。30分ほど奮闘していたが、大きすぎたようで諦めていた。(2020年2月3日,千葉県)

動画はこちら


画像⑤ 追い込み漁の一部。浅瀬に追い込んだ魚の群れを集団で襲う。(2014年8月6日,千葉県)

画像⑥ 規模が大きな追い込み漁。カワウは2.5kgほどの重さがあるので飛び立つときは助走が必要。写真の水しぶきは飛び立つときのもの。集団だとものすごい音になる。(2014年5月5日)


●カワウはなぜ翼を広げる?

池の杭などで、翼を広げて休むカワウを見たことありますか? (画像⑦)あれは羽を乾かしている動作です。潜ると羽毛は濡れてしまうので、乾かさなければ重たくて飛ぶことも難しくなります。そのため、乾かしています。

 

ただ、カモ類やカイツブリのように潜って餌を取るほかの鳥たちを見たことがあれば、この動作に疑問を抱く方もいると思います。彼らは翼を広げて乾かすことはしません。なぜなら、羽づくろいの際に脂を塗ることで羽毛に撥水効果をもたらしているからです。この脂は、尾の付け根の背中側にある「尾脂腺(びしせん)」という器官から分泌されています。ところが、ウの仲間は尾脂腺があまり発達してないようで、羽毛が水を吸いやすく羽毛のなかには空気を溜められないという特徴があります。この点は潜ることに特化しているといえるかもしれません。

 

ただ、濡れたままでは体温が下がりますし、水気を含んでいたら飛ぶのも一苦労なので、カワウが潜った後は翼を開いて乾かしていると考えられます。追い込み漁の後は集団で羽を乾かしていることがあり、洗濯物を干しているような光景です。

 

画像⑦ 羽を広げて乾かすカワウ。杭や枝の上、地面で乾かす。(2019年7月21日)

●繁殖期のドレスアップ

カワウは繁殖期を迎えると、雌雄ともにドレスアップします(ここで獲得するのを繁殖羽という)。繁殖の時期は地域によって異なるので、繁殖羽になる時期も地域によって変化します。たとえば関東では12月~2月頃が見頃です(画像⑧)。カワウはコロニーと呼ばれる集団営巣地を形成して複数の家族が一緒に営巣します。東京近郊では東京湾の第六台場、行徳鳥獣保護区(千葉県市川市)が有名です。

 

繁殖羽で大きく変わるのは次の2点です。

① 頭部に白と黒、足の付け根に白い羽毛が出る

② 目の下から喉の黄色い皮膚は一部が赤くなり、斑点が目立ち、色もオリーブ色になる

 

個人的に、頭部の白い羽毛は白髪ねぎを連想してしまいます。みなさんは何に見えますか?

 

また、②の特徴は一時的なのか、日数が経つと通常の黄色に戻るようです。余談ですが、この繁殖羽の頭頂部にある黒い羽毛は立たせることができます。この様子は、かつてサッカーイングランド代表だったベッカムの髪型に似ていたので、ベッカムヘアーと呼ばれていたことがありました。しかし、ベッカムが表舞台から退いてしまった今、10代の子にその話をしてもなかなか通じず、終いには「ベッカムって誰?」と返されてしまうことがあります。筆者は20代中盤ですが、ジェネレーションギャップを感じずにはいられません・・・。(画像⑨)

 

 

画像⑧ 11月の千葉県で撮影した繁殖羽の成鳥。繁殖期を控えて、顔の裸出部や頭部、足の付け根の羽毛が繁殖羽に変化した。足についている個体を区別するための黄色い足環に書かれている黒い文字(53C)から、画像①と同一個体。(2015年11月21日)

画像⑨ 成鳥。頭頂部の黒い羽毛は立たせることができる。(2020年1月5日)


 

 

 さて、もう5月上旬なので、関東地方のカワウの繁殖は終わりが近づいてきています。すでに繁殖羽ではなく画像①のような羽毛に戻っている個体がほとんどです。優美な繁殖羽は、次の秋~冬の楽しみに取っておきましょう。そしてそろそろ、巣立ってまもない幼鳥たちが現れるころです。カワウの幼鳥と成鳥は色で区別でき、幼鳥は全体的に褐色で腹部は白っぽくなっています。まるでスマートなペンギンのようです。幼鳥は虹彩のエメラルドグリーンも濁っています。このように色だけで大方区別できてしまうのですが、もうひとつの着眼点として、上面の羽毛の形の違いもあります。成鳥では各羽毛が丸いのに対して幼鳥は先端が尖り気味です(画像⑩・⑪)。尖った羽毛は次第に丸味がある羽毛に変わっていきます。 

 

画像⑩ 虹彩の色比較。成鳥の虹彩は幼鳥より鮮やかなエメラルドグリーンで、幼鳥は濁っている。(2020年4月29日、右:2016年7月。いずれも千葉県)

画像⑪ カワウ幼鳥。褐色で腹部が白い。上面の羽毛は成鳥よりも1枚が尖り気味。この尖った羽毛は次第に丸い羽毛に変わっていく。並行して全身の羽毛も成鳥のそれに変わっていく。そして生まれた翌年の秋から冬の間には、成鳥と同じような見た目になる。(2014年8月6日,千葉県)

カワウの話、いかがでしたか。公園の池や小さい川でも姿を見ることが多い鳥です。羽毛には光沢がある、虹彩が鮮やかなエメラルドグリーンなど、カワウは綺麗な鳥でもあります。都市公園の池などでは人慣れしていて、画像⑦のように人がそばを通っても逃げない個体がいます。近場で見られてカラスより大きくて黒い鳥カワウくらいなので、種類の同定は難しくないでしょう。

 

人に慣れていて近くで見られる個体に出会えたら、羽毛の光沢や虹彩の色などを見る大チャンスです。そんなカワウですが、住宅地でも空を見上げると飛んでいるところに出会うことがあります。飛ぶと成鳥は黒い色からカラスに似て見えるかもしれませんが、カラスよりも首が細長いことや、パタパタパタパタパタ・・・と必死に羽ばたいて飛んでいる様子、群れになってV字の隊列を組んで飛ぶ様子などからカラスとは容易に区別できます(画像12)。

 

 

画像⑫ 飛翔姿とV字の隊列。飛ぶと首が長いことや羽ばたきが速いこと、複数羽では隊列を組んで飛ぶことが多いことなどから、色が似ているカラスとは簡単に識別できる。(2020年4月,千葉県)

 

飛んでいく個体や群れ、いつも同じ方向に向かっていませんか? 彼らが向かう先は、餌場(もしくは、ねぐら)かもしれません。いつも同じ方向に飛んでいることに気が付いたら、地図アプリなどを見て向かった方向の環境を調べてみましょう。カワウが餌場やねぐらにしているかもしれない環境が見つかるかもしれません。



探鳥会でカワウに会ってみたくなったら